top of page
検索

保護者講習-2  宮内彩氏

更新日:2018年6月19日

文=志村彩夏(ERUTLUC指導員)

---------------------------------

はじめに

---------------------------------

 現在、アースフレンズ東京Z・男子日本代表のアスレチックトレーナーとして活躍している宮内彩氏は、選手からの信頼も厚くその活躍ぶりはトレーナーの枠を超えてチームに大きな貢献を与えています。


 これまでBリーグの球団をはじめ男子日本代表、U18日本代表など様々なレベルや年代のチームで選手たちと向き合ってきた宮内氏に、今回は保護者に向けた講習を担当していただきました。テーマは「怪我が起きた時に保護者ができること」。


 講習とインタビューを通して感じた宮内氏の熱い思いをレポートにまとめました。



--------------------------------- 宮内氏の活動理念 ---------------------------------

 「選手のパフォーマンスを最大限に引き出すお手伝いをしたい」

 いつでもそう思って活動しています。


 怪我をした選手のケアはもちろん、新たな怪我を防止できるようサポートするのも私たちの役割です。そのためには、アスレチックトレーナーとしての技術だけでなく選手とのコミュニケーションを欠かさないことがとても重要になります。



----------------------------------

普段の活動で意識していること ----------------------------------

 まずは選手の顔色を見ます。

 顔色といっても、「青白いね…」とかじゃなくて(笑)。

 つまり、「選手が何を考えていて、何を求めているか」を理解するように心がけているということです。


 私たちは常に、よりベストなものを選手に届けなければなりません。そのためには、パフォーマンス面以上に精神面に関してのアプローチをする必要があります。

 パフォーマンスを考慮する事の方法がベストかもしれませんが、本人の精神的な負担を考えたらベストはこれじゃない。と少しでも思ったらそっちに寄り添うようにしています。


 より質の良いものを提供するためには、選手に何があったのか、今どんな状態か、わかったうえでアプローチしないといけません。そういった意味でも、コミュニケーションは必須です。選手の心身をケアすることもアスレチックトレーナーの大事な仕事のひとつです。


 どんなに技術を持っていても、コミュニケーションがとれないトレーナーは選手たちから煙たがられてしまいます。



---------------------------------

講習の内容 ---------------------------------

 今回の講習は1時間という短い時間でしたが、このレポートだけではお伝えしきれないほどたくさんのことをお話ししていただきました。そのなかでも今回は、宮内氏が保護者、指導者の方に特に知っておいてほしいと言っていた項目をご紹介いたします。



①怪我をした時の応急処置<RICE処置>

 RICE処置とは、

 Rest(安静)

 Ice(冷却)

 Compression(圧迫)

 Elevation(挙上)と応急処置時に必要な4つの処置の頭文字をとった一連の対応のことです。RICE処置を怪我の直後に適切に行うことで、治癒を早め競技への復帰を早めることができます。


 今回は、足首の捻挫をした状況を使って応急処置<RICE処置>の方法を教えていただきました。


■Rest(安静)

 足首の捻挫をしてしまった選手がいたとします。その選手を、そのまま練習に参加させるか、休ませるか悩んだことはありますか?怪我をした後も患部を安静させずに運動を続けると、完治が遅れリハビリに費やす時間を長引かせてしまいます。そのため、怪我をしてしまった後は安静にすることが大切です。


評価の基準

 加重して痛みを感じるのであれば走ることは困難なので、その場合は一度アクティビティから除外してください。


⑴両足でカーフレイズができるか

⑵片足でカーフレイズができるか

→片足のカーフレイズができなければ安静にする

(カーフレイズとは、爪先立ちでかかとを上下に動かすエクササイズです)


確認して欲しいこと

・左右の比較

・患部は腫れているかどうか

・歩いて痛みがあるか

→もし問題があればカーフレイズで評価する


■Ice(冷却)

 怪我の直後に患部を冷やすことで痛みを軽減でき、また血管が収縮することで腫れや炎症をコントロールすることができます。アイシングは15〜20分ほど行います。

(ビニール袋を使用すると冷却効果もよく、皮膚の温度で氷も適度に溶けるので凍傷を避けることができるのでおすすめです)

※保冷剤は肌に触れても温度が下がらず凍傷の危険性があるため、なるべく使用は避けましょう。冷却効果の確保のために、ビニールは空気を抜いて使用します。


■Compression(圧迫)

 腫れや炎症を抑えるために圧迫を行います。その場に氷がなければ圧迫だけでも有効です。圧迫の時間は、炎症のコントロールが必要な受傷後24〜72時間程度です。


 できればバンデージなどの伸縮性のあるもので圧迫するとより効果的です。足の下部から上部へと順番に巻いていけば圧迫は完了します。足の色が紫になるまできつく巻く必要はありません。もし圧迫による痛みを感じたら外したり緩めるのをおすすめします。血流が正常にあるかどうかを確かめましょう。


■Elevation(挙上)

 腫れや炎症を重力によって最小限に抑えるために挙上を行います。患部を心臓より高い位置まであげることで血液が末端に溜まるのを防ぐ効果があります。


 怪我をしてから24~72時間では急性期の炎症が起こります。この時期にいかに炎症をコントロールできるか(腫れを抑えられるか)で復帰までにかかる時間が決まります。

 怪我をしてしまった選手に対して応急処置が適切に行われるかどうかは、現場のスタッフや怪我をした本人、その保護者が正しい知識を認知しているかが鍵となります。



②怪我から早く復帰するために

<医院選択の重要性>

 怪我をしてしまった場合どの医院に診療してもらうべきでしょうか。それぞれの施設における役割の違いを理解していれば、迷うことなく目的に合った施設を選択する事ができます。今回は整骨院・接骨院、整体、整形外科について説明します。


■整骨院・接骨院

 医療行為を行う施設で、傷や怪我の治療を行ってくれます。骨折や捻挫、脱臼、挫傷を治療し、身体が元々持つ治癒力を高める医療行為を行うことが可能です。開業には国家資格である柔道整復師の資格が必要です。


■整体

 整体師やカイロプラティック師といった民間資格を所有する人が開業している施設を指し、こちらも傷や怪我の治療を行ってくれます。しかし、中には専門知識を持たない方や治療経験が少ない方が開業している整体もあるそうなので、そうした医院にかかってしまうと症状が改善しないどころか悪化してしまう可能性があります。かかる際は医院を慎重に選ぶ必要があります。


■整形外科

 医師が画像を見て必要に応じて投薬やリハビリの処方をします。主に診断をするところで、治療を行うところではありません。治療としては、痛み止めや薬の処方をはじめ、レントゲン、CT、MRIなどの画像による検査、軟膏や湿布の塗布、ギプスや包帯での患部固定などを行います。


<家でもできるセルフケアの紹介>

 怪我をしてしまったときの症状の緩和や怪我を予防するためには、自分自身で行うケア(セルフケア)が大事になります。宮内氏は、講習やインタビューの中でもセルフケアを正しく行う事を重要視されていました。日々のケアを意識するだけでも怪我の頻度は大きく減少するそうです。今回は、身近にある道具を使って一人でもできるセルフケアの方法をご紹介していただきました。患部や症状に合わせて、ひとつひとつ丁寧に教えていただきました。


 一部ですが講習でもご紹介いただいたセルフケアの動画です。詳しく説明もされておりますので、保護者の方や指導者の方にもぜひ見ていただきたい内容です。


「ふくらはぎのセルフケア」


「足の裏のセルフケア」



「姿勢や肩の動きを良くするセルフケア」


--------------------------------- 10代の選手たちに伝えたいこと

---------------------------------

 以前U18日本代表の選手たちをみたときに感じたことは、身体ができていないことでした。

 スキルやポテンシャル、高い能力がある選手も、小さい怪我を積み重ねているためリハビリをやらせたときに機能的なところで支障をきたしていました。体の使い方がまったくなっていないのにプレーをしている選手、怪我をしているのにやり続けている選手がいるという状況です。これらの原因として、セルフケアなどの自己管理を怠っている、身体の状態に対する正当な評価が行われていない、きちんとしたリハビリを経て運動に復帰していないことなどが挙げられます。

 そのため、本来持っているはずの能力を生かし切れていないこと、努力や才能でやってきてしまっている現状はすごくもったいないと感じました。


 将来活躍したいジュニアの選手の皆さんには特に、阿部さんや晃一さんがやられているような身体の使い方のトレーニングが必要だと思います。怪我は減り、持てる能力を最大限に生かすことができるのでパフォーマンスの向上につながります。このような基礎をジュニアの時期から整えておくことで、もうひとつ段階をあげた練習が可能になるのではないかと思います。


--------------------------------- 保護者や指導者の皆さんに伝えたいこと

---------------------------------

 保護者や指導者の方には、AEDの使い方、CPR(心肺蘇生法)、脳震盪などの見えない怪我に関する認知を高めてほしいです。命の危険から選手たちを守るためです。

 アスレチックトレーナーは選手の命を守ることも重要な仕事です。私たちは常に、預かった選手たちを守るための評価をしなければいけません。練習場所、練習時間、気候、練習や試合のスケジュール管理など、選手に危険があればそれを考慮したうえでコーチに提案をすることができます。

 しかし、今の日本はトレーナーの普及が十分に進んでいないという状況にあります。チームにコーチはいたとしても正しい知識を持ったトレーナーは一人もいないといった場合が多いのです。日本ではまだトレーナーの必要性が認知されていないので、私たちは今回のような講習を通してアスレチックトレーナーの認知を広めていく必要性を感じています。このような状況のなか、指導者や保護者の方には正当な評価と適切な処置を最低限できるようにしてほしいのです。命の危険から選手たちを守るためです。


--------------------------------- おわりに ---------------------------------

 今回の講習を通して、「選手のパフォーマンスを最大限に引き出すためのサポートをしたい」そこにかける宮内氏の熱い思いが伝わりました。講習やこのレポートから、怪我の状況に直面した際に少しでも内容を思い出していただければ幸いです。宮内氏は、もしまたこのような機会があれば、座学だけでなく多くの方が実践できる体験型の講習もしたいと、アスレチックトレーナーにおける必要性の認知を広める活動にも意欲的な姿勢を示されていました。

 「技術面はもちろん大事。でもそれ以上に、いちばん大切なのは選手のことをきちんと理解できているか。何を考えていて、何を求めているか。それがわかったうえでベストな方法を考えること」今回宮内氏にはトレーナーという立場から講習をしていただきましたが、スポーツに関わる指導者や保護者の方にも共通する、とても大事なことを伝えていただきました。そして私たち周囲の大人は、目の前にいる子どもたちの未来に対して責任を負っていることを忘れてはならないと感じました。

bottom of page