廣畑知也氏による「フィジカルトレーニング&コンタクトプレー」
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指導理念を教えてください。
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「身体からバスケットボールを変える」
地味できついこと、それをどれだけできるか、させるか。きつくなると人は笑ってしまうもの。だけど、身体を正しく使っていればきつくても壊れることはない。
身体の使い方を変える、正しく使えるようになる過程で「今のは違う。今のは良かった」など自分の身体と対話が始まって、使い方を考えるようになる。考えるようになると体で感じて、わかるようになる。
大きい選手、小さい選手、または意識していること無意識であることに関わらず自分の体を動かしているのは自分であって、土台である身体を自分でコントロールできるようにすることが最も大切だと考えている。
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正しく身体を使うことで怪我を予防できる。これは当たり前のようで意外とできていないことですね。自分の身体を思うように動かすためにも自分の身体との対話を繰り返し行い、コントロールできるようにしていきたいものです。土台となるものが最も大切だと感じています。
ジュニア期の選手に対する指導で普段から意識していることは何ですか?
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①関節の柔らかい成長期でのトレーニングの重要性
急ストップ&急加速、ジャンプ、着地など体重の何倍も負荷がかかっている試合の方が負荷が高い。その中でかなりの試合数をこなすのがジュニア期。
トレーニングをしないで正しい身体の使い方をしていないと怪我につながってしまう。怪我をせず多くの試合をこなせる土台を作る。
また、正しい身体の使い方をすることで、出来るスキルの幅が広がる。身体が小さい、大きい、意識をしているしていない関係なく、自分の身体を動かしているのは自分なので、土台となる自分の身体をコントロールできないとスキルをいくら頑張って練習してもパフォーマンスが上がってこない。
「器用な選手」「センスのある選手」止まりになってしまう。トレーニングをしたからバスケットが上手くなるということではないが、世界のトップレベルの選手は必ず基礎トレーニングをしている。
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体の使い方を間違えている状態で繰り返し試合を行っていると考えると恐ろしいです・・・。
いつ怪我をしてもおかしくないですね。怪我をするリスクを減らすためにもジュニア期のトレーニングは欠かせませんね。
そして怪我を予防すると同時にスキルの幅を広げることができるというのはお得!
基礎トレーニングから徹底的に行うことは遠回りに見えてむしろ上達するための近道なのですね。
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②ジュニア期におけるトレーニング
「木彫りを作るように」
・粗彫り:およその全体像が出るまで彫る。
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・部分の造作:細かい部分を作る。
同様にバスケットの中でも大枠を作ってだんだん削っていく。できなくてもやらせていく中で、小さい年代の選手でもトレーニングを重ねていくと目の色が変わる瞬間がある。足が速くなったなどできるようになっていく自分は、自分でわかるという。
年上の選手が真剣にやっていると自分もやらなきゃと思い真剣に取り組む。やっていく中でできない自分が腹立たしかったり悔しい思いをするが、できるようになっていく自分がいると選手は変化していく。
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分かりやすい例えで良く理解できました。形だけでやってしまいがちなジュニア期、はじめはそれでいいんですね。上手な選手の真似をしながら自分の身体と対話し、試行錯誤しながら形をつくっていく。変わったという実感を持たせることも大切。
今日行った指導のねらいと目的を教えてください。
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スキルコーチが多い中で、自分たちはスキルの土台となる身体の使い方やトレーニングの重要性を伝えたいと思った。身体の使い方は大切だけど浸透していないこともあるのであってもいいかなと考えた。自分たちが鍼灸師であることからその専門性を武器にそこにスキルを乗せていくやり方でやっている。
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専門性の高いフィジカルトレーニングを勉強する機会はなかなかなく、とても勉強になりました。専門的な細かい動きのポイントやトレーニングの重要性をより深く知ることができました。土台となる身体を思い通りに動かせるようになるために選手、指導者共々努力します。
クリニック・サミットの感想をお聞かせください。
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フィジカルトレーニングは地味できつくて嫌がることがあるが、選手が真剣にやってくれていて意識の高い選手が多くてよかった。テーマであるものを求めてきている選手たちなのでみんな意識高くやっていたのではないか。メニュー的には選手がやろうというよりは親御さんが見て受けさせるんだろうなと思った。
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きついトレーニングだったにも関わらず選手たちは本当に真剣に取り組んでいました。同じ高い意識を持った選手が集まっていたというのもありお互いに高め合っていて、見学者としても引き込まれました。まさに「類友」ですね。(類は友を呼ぶ)
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このイベントは、選手にとっても指導者にとっても良い交流の場になっている。でも、もっと参加したい選手はいるのではないかと思う。場はあるけど情報が回っていないことでこのイベント自体を知らなかったり、部活動の試合や練習があるため参加できないことがある。
また、海外のコーチが来日したり、普段受けられない指導者から指導してもらったりとてもありがたい場になっている。指導者にとっても、SNSが発達してきて多くの指導者とつながりはあるがWEB上だけのつながりの方もいる。でもこの場があることで指導者とも会えるし、さらに交流が増えていくことがありがたい。
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選手にとってこのような素晴らしい経験ができる場があって幸せですね。私ももっと広がってほしいなと思います。こういう場を使って指導者の方の交流も盛んに行っていただき有難いです。直接顔を合わせて言葉を交わし合うことは、このご時世特に大切にしていきたいものですね。
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◆ジュニア期のフィジカルトレーニングについてお尋ねしました。
フィジカルトレーニング、スキルの練習時間は大体3:2の割合で行っているという。
バスケットボールでは股関節の使われ方が大切だと考え、股関節のトレーニングについてお伺いしたところ、股関節は運動の中で動きながら使うので、ランジ、サイドランジなど動きの中で使うことを意識してトレーニングを行っているという。
アップの前に股関節に刺激を与えると意識がしやすい。意識させるために部分的にトレーニングすることはあるが、単独で動かすことはほぼないので動きの中で股関節のトレーニングをしていく。
股関節の柔軟性は必要だが、柔軟性が高すぎればその分関節が緩い状態をつくりやすく、試合中の急ストップ急加速でエンジンとなるお尻の部分の筋肉のアクションができずに抜けてしまう。
また、柔軟性が高すぎることで動きの制限をつくりだしてしまう。
適度な柔軟性で、動きの中で柔らかさを出せることが最も大切ということだ。
○クリニックメニュー
フィジカルトレーニングは山本コーチ、コンタクトプレーは廣畑コーチを中心に進められた。
【フィジカルトレーニング】
フィジカルトレーニングをする意味は、「ボディハンドル」というように身体を思い通りに動かすために行う。トレーニングは繰り返し行っていくことが大切である。
フィジカルトレーニングの序盤はバッシュと靴下を脱ぎ、裸足でトレーニングを行った。裸足でトレーニングを行うのは、シューズに足が守られていることによって使われていない足の筋力があり、その筋力を鍛えることができることや、地面との接地面が足裏の感覚ですぐに分かり、良いバランス感覚が身につくため。また、土踏まずを作りやすくなる。
トレーニング中には「つま先を前にまっすぐ向ける」ということを繰り返し伝えていた。
以下、ポイントを交えながらトレーニングの内容をあげていく。
○腿の外側を伸ばすように足を上に持ち上げる~半分から足を外側に曲げて持ち上げる
○膝を下に向けて腿の前を伸ばす~身体を前に倒して着いている足の前の床を触る
○ランジ(膝がつま先より前に出ないようにする)~後ろ向きでランジ
○手を上に伸ばし、膝を上にあげてからランジ
○手を横に振ってランジ(顔とへそは前に向けたまま)~足を交差して前屈(後ろ足の方へひねる)
○膝引き上げ(上げている足のつま先は天井を向く。着いている足はつま先で立つ)
○スキップ(膝を高くあげてリズミカルに。跳ねない)
○腿上げ~お尻にかかとをつける
○足上げ(着いている足のかかとがあがらないように。上げている足のつま先は天井を向く)
○片足バランス(飛行機のように身体を床と平行にする)
○バックウォーク(少し前屈し、足を後ろに引く)
○バックラン(細かく足を動かす。腕を振る)
○四つん這い(膝を少し浮かせる。手足交互。お尻は浮かないように)
○腕立ての姿勢から横移動(お尻が上がらないように)
○腕立ての姿勢から足を手に引き寄せて腿の裏を伸ばす。
○チューブトレーニング
チューブトレーニングでは、常にパワーポジションを保つこと、つま先と膝が同じ向きになることに気をつけながら行う。パワーポジションをとる際には膝がつま先より前に出ないようにお尻を下げることがポイントである。チューブは膝より上にあげる。
・前向き、後ろ向きで歩く(周りとスピードを合わせる)
○ジャンプ、着地トレーニング
着地をする時にここでも膝がつま先より前に出ないようにすること。お尻で着地するようにするとよい。まっすぐ跳んでまっすぐ下りること。
・その場でジャンプから着地
・連続ジャンプ (徐々に高く跳んでいく)
・ホッピング (足首だけで弾むように。なるべく高く、接地時間を短く)→足首を強くしてくれる。
○走って止まる動作
走って止まる動作の中にも多くのポイントがある。止まる動作を大切に自分のペースで行うこと。止まった後は前のめりにならないようにパワーポジションをとる。つま先に重心を置くこと。頭の高さを一定に保ち、跳ねないようにすること。
・ボールキャッチの動作をつける
・シュートの動作をつける
・止まってランジ→パワーポジション
・止まってランジ→後ろへランジ→ランジ→パワーポジション
・止まってランジ→後ろへランジ→ランジ→ショット動作
・横移動(サイドステップ)往復→パワーポジション→ショット動作
【コンタクトプレー】
コンタクトプレーはDEFを抜くとき、競っているとき、交わしたときに起こる。
肩、腰などの大きい関節を押さえると動かしずらくなる。その関節をオフハンドで押さえるようにしたいのでオフハンドは自由に使えるようにする。
2人組
○ドリブルチェンジしながらオフハンドでボールにタッチ。(チェンジ後のタッチを素早くする)
○ドリブルチェンジ→クロスフット→オフハンドで相手の腰タッチ。(ワンステップアヘッドに足を着く。3つの動きを同時に行う)
○エルボーからゴールへドライブ
1.2ステップ後、ワンステップアヘッドにクロスフットを置き、ディフェンスに接触しながらゴールへ向かう。抜くときの姿勢はフィジカルトレーニングでやったランジの姿勢をとる。オフハンドでディフェンスを押さえる。
・横についてこられる状況→ディフェンスと並行したときにもぐりこむように肩と足を入れてゴールへ向かう。
・回り込まれる状況→ドリブルチェンジをしてゴールへ向かう。ドリブルチェンジをするタイミングはディフェンスの足がクロスになる瞬間を狙う。クロスする瞬間は逆へ動くことができない。
・1対1→ディフェンスの状況を感じ、ダイレクトにゴールに向かうのかチェンジをしてゴールに向かうのかを自分で選択する。